第2章 日記
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僕は、君の体温を
この肌で直に感じた事は一度もなかった
だけど
案外甘えん坊な君が、僕が病室から帰るときに、必ず求めてくれるハグと
…少し長めのキスだけで
十分、満足だった
そりゃ
僕だって、健康な男子だから
体を重ねる事に興味がなかった訳ではない
だけど、僕は
僕らは、そんな事をしなくても、深く繋がっている
…そんな風に思えたから
だから僕は
それだけで十分幸せだった
智子
僕は本当に
それだけで幸せだったよ
──4月29日──
世の中は、ゴールデンウイークってやつらしい
年中ゴールデンウイークみたいな私には、到底関係ない話だけど
同年代の友達は、彼氏と旅行に行ったりするらしい
私は、旅行は疎か、外出すら出来ない体だから
そんな事をするのは夢のまた夢
きっと友人たちは、旅行先の宿で、彼氏と甘い夜を過ごすのに違いない
それに引き換え…私はなんだ?
薬臭い病室で、隣のおばちゃんの聞き耳をかいくぐって愛を語り
そのおばちゃんの目を盗んで、短い抱擁と、お情け程度のキスをするだけ
…そんなんで、彼女って言えるのかな?
章くんは、本当は
やっぱ、他の恋人たちが当たり前のように行える営みを自分もしたいって
思ってるんじゃないのかな?
私
彼女、失格かな?
いや、もう直ぐ死んじゃうって所で
既に失格かも(笑)
…ごめんね、章くん
だけど、大好き。
「……俺も大好きだよ」
僕は、そのページに綴られた“大好き”の文字をなぞりながら、呟いた
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