聖夜はアナタの好きにして【鬼滅の刃/上弦の鬼短編】
第3章 あまい毒牙/童磨
「俺も馬鹿じゃないからそれくらいわかるさ。君もそうだろ?そして、君は絶対トラブルになるような子じゃない。」
確かに、童磨さんの立場が悪くなるようなことは絶対しない。
わたしだって、そんなこと望んでない。だけど……
「黒死牟殿みたいにうまい事はいかないかもしれないけどさ、俺、ちゃんとマキちゃん守れるよ?これは、マキちゃんの勘違いでも何でもない。」
信じたい気持ちと、信じて裏切られたときの怖さ、信じた先に何があるのかの不透明さ、いろんなものが込み上げてわたしを締め付ける。
「知ってるかい?俺が”マクラ”しないの。もっと言えば君を好きになってからそういうこと一度もしてない。かれこれ1年くらいかな?」
「何をどう信じればいい?」
「俺の口の巧さは、君のためっていう事。でも、そういっちゃうと、もっと不安になってしまうのだよね?」
「……。」
体はくっつけたまま、視線を上げればいつもと違う危険すぎる色気に艶の増した囁くような声が、わたしの逃げ場を奪っていくような気持ちになる。
正直、何をされても言われても、怖いものは怖い。
だけど、その打ち明けられた言葉に乗っかってしまえたらとも思ってしまう。
それに、彼が言う1年という期間にも、何度かはセックスなんてしたことある。
仮にそれが全部、”わたしだけ”だったとしても……。
「俺、どうしても、このままじゃ嫌だから、二つ約束しよう。」
「.....どんな事?」
童磨さんは、長い人差し指をわたしの鼻先に押し当てて、じっと見てきた。
「この家に入れる女の子はマキちゃんだけ。部屋は解りやすいように芳香剤みたいな匂いはさせない。」
「俺のあの愛車の助手席も君だけのもの。君が好きな香りを置いておくよ。」
「もし、………破ったら?」
これだけの”わたしだけ”って条件を出されて、どうしてそこまで”保証”が欲しいんだろう。
人間の心なんて、他人が操作できるようなものでもないのは解り切っているのに。
この人の言葉を聞くたびに、笑顔を向けられるたびに、どんどん泥沼に沈んでいくように身動きもできなくなっていくんだ。
だから、溺れてもいい保証が欲しい。