聖夜はアナタの好きにして【鬼滅の刃/上弦の鬼短編】
第2章 覚めない夢
鳴女ちゃん。そっか…。あのこもあの店に何度か行ったことがあるって言ってたっけ。
呼び捨てで呼ぶ当たりよく行ってたのかな。
でも、あの子のお陰でわたしは助かったんだし…
「巌勝のせいじゃない…。ずっとここに?」
胸の締め付けよりも彼の今がこうも暖かいから、二人ともわたしのためなんだ。
「ずっといた。もう喋るな…。まだ辛いだろ?よく眠り体力が戻れば…綾乃の話が聞きたい。」
長い指がどうしても止まらない涙を拭って、掌が髪を撫でる。愛しんでくれる眼差しの下でこんなにこころがどうしようもなく暖かい。
何度か優しく頭を撫でられて、まだ熱くて重い体に引きずられるように眠りに落ちた。
7日後、綾乃は絶対安静を条件に退院が許された。
「いいですか?兄さん。綾乃さんは本来ならあと一週間、絶対安静です。もし言いつけを破り綾乃さんの病状が悪化したら…。」
「わかっている。案ずるな。ほったらかすことも無理強いする事もしない。」
「………、兄さんを信じます。綾乃さん、もし体調が悪くなればすぐにでも連絡くださいね。」
「はい。有難うございました。これからもよろしくお願いします。」
巌勝の弟さんが、この人の強引なところに困ったような顔をしていたけど、どこか嬉しそうだった。
そんな事を思っていると、巌勝さんが、わたしの荷物を車に乗せている隙を見て担当してくださった弟さんが隣にきて耳打ちしてきた。
「強引で少々困った兄ですが、根は優しくて頼りがいのある人です。いっぱい甘えてやると喜びます。」
そういってわたしに目を合わせて優しく微笑んでくださるのはやっぱり双子なのだと思うほど似ていた。
「縁壱。人の女に手を出すな。」
「滅相もない。俺は嬉しいのです。あなたが幸せそうで…。」
「世話になったな。」
俺の女が世話になったって言われているようで思わず頬が赤くなる。
出会った頃に見た二人を思い出す。
一緒にいた弟さんじゃなくあなたが良かったのは、弟さんを笑顔にさせるあなたを見たからだった。