聖夜はアナタの好きにして【鬼滅の刃/上弦の鬼短編】
第2章 覚めない夢
鳴女は静かにそういって、部屋を出ていった。
酸素マスク、モニターの線、点滴の管、倒れた時にぶつけたであろう額の包帯。あまりの痛々しさに申しわけなさと情けなさが一気に押し寄せた。
「すまない...。」
涙腺が痛い。
じわじわと抑えきれなくなったものがひとつひとつ頬を伝って落ちていく。
病室に、眠る綾乃と二人だけ。面会に来た者の足音とアナログ時計の音がやけに大きく響いた。
横たわる綾乃のベット横にある椅子に腰かける。
綺麗な寝顔の目元にうっすらと隈が出来ている。
病室に備えられたテレビ台の上に、メモが置いてあった。鳴女が書いたのであろう。内容はこうだった。
≪このところ綾乃さんはスケジュールパンパンでこちらも心配するほどでした。今思えば、あなたとのことで悩んで、思いつめて、考えられないようにしていたんだと思います。≫
そんなことすら気づかなかった。
俺は何をしている。
ただ忙しいだけだと何故流した。
何故気付いてやらなかった。
もっと考えてやるべきだっただろう。
思い返せば俺の前で泣いたことなどあっただろうか。
彼女から何か頼まれたり強請られた事......。記憶にない。
ただ、ずっとくっついてきては、別れる時に少し寂しそうにするだけ。
一人で相当泣かせてしまっただろう。
「......。」
何か話したような息遣いに、眠る綾乃を見た。
「みち........。」
「綾乃?」
「......。」
両目の端に涙が溜まって光り、じわじわと溜まって、やがては両端から筋を残して流れていく。
「目覚めたら、お前がどう思ってたのか聞かせろ…。もう、ひとりで抱え込ませないから…。」
こぼれた涙とその筋を拭ってやると目尻に触れるだけ口づける。
まだ、体温が高い。そうとう苦しかったろうと思う。俺が安いプライドで意地張ってなければこうはならなかった。
こうなるほどに思いつめてもなお、己の事を好いてくれている。
そう思うと今以上にこの女の存在が愛おしく思え、存在が大きくなっていった。
綾乃の手を握り、上体を規則正しく上下させている呼吸を見て安心してきて
気付かない間にそのまま深い眠りに落ちていった。