聖夜はアナタの好きにして【鬼滅の刃/上弦の鬼短編】
第2章 覚めない夢
付き合ってたというのは名ばかりで、何もしていない。
プライドばかり高くてとんだポンコツ野郎だ。
なのにアイツは......。
「行っておいでよ?俺がうまい事フォローしとくぜ?」
「悪いが、頼む。」
女は病状をわざとらしく告げずに病室だけ教えて通話を切った。継国総合医療センター。父と弟の病院...。
すれ違う従業員やホスト達にも目をくれず、タクシーを拾って病院へと向かった。
「ベタ惚れじゃないか...。荷物も忘れちゃうなんてね...。」
残された童磨がひとりぼやいていたことなど知る由もない。
病院へ向かう途中今までの綾乃の事を想う。
あっては嬉しそうに笑顔を見せて、長く会わない間を埋めるようにずっとくっついていた。
今思えば寂しかったろう。
綾乃のワガママ一切聞いたことがない。
ただ来てくれたら他愛のない話を沢山聞かされて、その楽しそうに聴かせてくれることが嬉しかった。
表情豊かに、行動でも、言葉でも、
一身に愛を注いでくれたのに俺は何を返してあげれただろうか。
気付けば綾乃のやさしさに甘えてばかりで、何一つこちらからはしていない。”客のように扱わない”そう決めていたのに、色々かっこつけるどころか臆病になりすぎて、それを安いプライドでこじつけて”客以下の扱い”に成り下がっていた。
病院へ着き、教えられた部屋へ着くと、部屋の番号の下に藤川綾乃と書いてあるのを見つけた。胸が締め付けられる。
病室を開けると見慣れた女が立っていた。俺の客として何度か来店した事のある女。名前は鳴女。
「随分と早かったですね。綾乃さん、凄く思いつめてました。心はボロボロでずよ。二人でとことん話し合ってください。」
そう言い残して俺の横を通り過ぎ部屋を出ていこうとする。
「待て。」
「御心配なさらずとも、あなたの不都合になる事は何もしませんよ?」
「いや、...、綾乃を、いつも有難うな...。」
「......。病状をお聞きになりましたが、病名は肺炎だそうであと数時間遅れていたら取り返しがつかなかったということでした。今夜は恐らく目覚めないとのことです。」