聖夜はアナタの好きにして【鬼滅の刃/上弦の鬼短編】
第2章 覚めない夢
「そんなことないだろう?いつも仕事用ではなさそうなスマホばっかり気にしちゃってさ。」
「......。」
「俺は知ってるぜ?綾乃ちゃんの事だろ?」
「貴様、どうしてそれを?!」
正直、交際しているのを知ってるのは弟くらいだ。
店のやつらには絶対話さない。こいつはそういうことをしないと妙な信頼はあるが、ホスト同士のプライベートが知れると潰しにかかる連中もよく聞く。用心に越したことはない。
目の前でチラつかせたのは、なぜか綾乃に送ったはずのメッセージだ。
内容は破廉恥極まりないものではないにしても、
”綾乃。最近連絡がないが忙しいだけか?”
普段のわたしの動向から充分解り得るものだった。
「綾乃ちゃん、月2回くらいで来てたのに2ヶ月以上も来ていないじゃないか。しかも堅物の君が、客を追いかけたりしなかっただろう?」
図星だ。
「店に来る女も、本命の女も同じさ。女っていう生き物は”行動”より”言葉”が欲しいものだよ?正直客のアフター全部受けてるようにお見受けするが、彼女に最後に会ったのはいつだい?」
「10月末...。」
「なんだってぇ?連絡は?」
「今月は一日に一度したきりだ。」
「初めて聞いたよそんなのは!何とも思わないのかい?」
「......。」
珍しく童磨に説教された。くどくどと長い時間。だが、今回ばかりは童磨が言うことが正しくぐうの音もでない。
「あの子、業界でも超モテるんだぜ?うっかりしてると寂しさ埋めるために他所に盗られてしまうよ。」
留めの一言を刺されたその時だった。
着信音と共になぜか背筋が凍る思いがした。
画面には見たことのない番号。しかもプライベートの方のスマホだ。
だが、なぜか取らねばならぬ気がして、電話を取る。
「もしもし。藤川綾乃さんのマネージャー兼友人の者ですが、綾乃さんが今、継国総合医療センターに運ばれましたので、至急病院へ来ていただけませんか?」
「どういうことだ!!」
「連絡してもなかなか出られないので綾乃さんの自宅へ来たら倒れてらして意識もなかったので、救急車呼びました。」
「病状は?部屋は?」
この女の電話によっていろいろなことを思い知らされる。
マネージャーの名前も
友人の存在も
仕事の事も
割と基本的な事も何もかも知らない。