第1章 爆豪くんがちょっと苦手。
三時間目の終了を告げるチャイムが鳴って、セメントス先生が「今日はここまで」と口にする。
そして先生が教室を出ていくよりも先に、私は窓際、前から三番目の席を立って、教室の後方に向かった。
向かう先は、まだ板書を移しているらしい、紅白頭の彼の元。
その邪魔にならないように、そっと砂藤くんの席の方によりながら、私は声をかけた。
「と、轟くん! 今、少しいいかな。すぐに終わるから、耳だけ貸してほしいの」
「あぁ。どうしたんだ?」
私の言葉に、轟くんは一切の遠慮をみせず、板書を取りながら返事をする。
ちょっとくらい、顔をあげてくれてもいいのに。とも思ったけれど、雄英の休み時間は、そんなに長くない。
轟くんが素っ気ないんじゃなくて、仕方がない状況だと思わなきゃ。
「あ、あのね、良かったら今日、お昼一緒に……」
「…………わりぃ、今日は先約があるんだ」
「……そっか。じゃあ夕飯は?」
「……わりぃ。今日はトレーニングして帰るから、遅くなる」
「じゃ、じゃあ、そのトレーニング、私も参加しちゃダメかな」
「それは、ちょっと」
「……それなら、」
轟くんが帰ってくるまで待ってるから。
ダメ押しにそう言ってみたら、轟くんは俯きがちのまま、眉根を寄せながらも、「それなら」と了承してくれた。
迷惑だ。って思われているのかな。
ううん、それでも私は轟くんの彼女なんだもの。
寮で食べる夕飯くらい、「一緒に食べたい」と提案をしても、許される関係のはずだ。
それでも、どうしようもなく不安になる。
轟くんがお昼にいれた先約の相手が分からない。
そもそも私は彼女なのに、わざわざ毎日約束を取り付けなきゃいけないんだろう。
「……どうかしたのか?」
「う、ううん。何でもないよ。……夕飯、楽しみにしてるね」
それだけ言って、私は席に戻る。
それから、出来るだけ小さくため息をついた。