第19章 黎明のその先へ【END2】
月城は刀を抜こうとしている。目の前の俺の姿をしたものが本物ではないことは分かっているようだ。
だが彼女に俺の首を切らせたように見せることはしたくない。
月城が刀を抜くより早く間合いに飛び込んだ。
「見るな!」
炎の呼吸 壱ノ型 不知火
俺と同じ顔をした頸が飛んだ。あまり気分のいいものではない。
その姿はやがて本来の鬼の禍々しいものへ戻り、塵となり崩れた。
すぐに刀を鞘に収めて振り返ると、月城は目を伏せてはいなかった。見てしまったか…。
「大事はないか!」
肩に手を置いて声をかけると、一瞬体が震えていたのが分かった。
「あれが俺ではないと、よく気がついたな!」
「…分かりますよ。心が燃えていないんですもの。でも、もしも違かったらとも思って判断が遅れました。」
月城の手が震えていた。それを自分で握って抑え込んでいる。
怖かったのだな。
その震える手を握って言う。
「もしもあれが俺だったなら、君に頸を切らせるようなことはしない。切れたなら、それは俺ではない!」
「……それもそうですね…」
どこか弱々しい彼女をとても愛おしく思う。
ここで分かれるのは惜しい。
今夜はこのまま連れて行こうか。
「次の場所へ向かう!ついてこい!」
ずいと顔を近づけてて言うと、月城は驚いたように目を見開いて、大人しく「はい」と返事した。
危険は承知。離れるよりましだ。
離せば次にいつ会えるかも分からない。
俺は月城を連れ回して担当地区の数カ所を回った。
彼女の肺に負担をかけないように体調を気にかけながら。
依怙贔屓といえばそうだろう。
だが特別なのだから仕方ない。
見回る最後の地区では、全身が透ける鬼と遭遇した。おまけに分身する。月城にとっては身体が透明であるかどうかなど関係なく見えるが、複数の身体のどれが本体か分からなかった。
「何体に分かれた?」
「えーっと…六体です!」
「よし!月城!最低一体は斬れ!」
俺は刀を構えて目を閉じた。見えないのだから視界に映るものは余計な情報だ。肌に感じる気配だけで見極める。
「伍ノ型 炎虎!」
鬼が三体、姿を現し、塵となって消えた。
あと三体。