第18章 白日の中で待つ【END1】
その微笑みがまたなんとも可愛らしい。
お互いに不思議な感覚だった。
彼女は礼を言ってすぐ行ってしまうこともなく、真っ直ぐに見つめてくる。
桃寿郎もまた彼女から目が離せなかった。
時が止まったとさえ思うが、そんなことはなく。
電車は発車のメロディが流れる。
全く気づく様子のない桃寿郎に、車内の友人たちは大声で呼びかけた。
何度も呼ばれてようやく気が付き、振り向いた頃には電車のドアは閉まった。
「あっ!荷物…!」
電車は荷物を乗せたまま行ってしまった。
幸いにも携帯電話は持っているし、皆降りる駅は一緒だ。
次の電車に乗ればいい。
彼女の方をもう一度見ると、心配そうに見つめていた。
「ごめんなさい、私に傘を持ってきてくれたから…」
「いやいや!構わない!」
丁度友人たちからも連絡がはいる。
荷物をもって駅で待っていると。
「友人と一緒だったのでな!皆預かっていてくれるそうだ!問題ない!」
桃寿郎は朗らかに笑ってみせた。
そうすれば彼女も小さく笑った。
なんとも可憐な人だと思った。
「次の電車がくるまで、一緒に待っていてもいい?」
思ってもいないことで、桃寿郎は一瞬驚いたが、なぜだかどこか安心に似た気持ちもあった。
「嬉しいが、気を遣わなくても大丈夫だぞ。君の用事はいいのか?」
「それがね、私、降りる駅を間違えたみたいで。うたた寝してたから慌てて降りちゃったのだけど、本当は二つ先の駅で降りたかったの。」
「なんと!偶然だな、俺もそこで降りるんだ。………一緒に行こうか?」
恐る恐る誘ったが、彼女の顔は花が咲いたように喜んでいた。
「ありがとう…!引っ越してきたばかりで、このあたりのことはよくわからなくて…」
「そうか!任せろ!俺は煉獄桃寿郎だ。」
桃寿郎は剣道でまめだらけの手を差し出した。
「月城リアネよ。」
リアネは真っ白でしなやかな手で握り返した。
二人の中で何かが結びついた瞬間だった。
桜月夜〜白日の中で待つ END〜