第2章 一宿一飯
炎柱様の背を見送り、私と千寿郎さんは門扉を閉め、鍵をかけて中へ戻った。
千寿郎さんは私に着替えをと、炎柱様のお部屋へ案内して下さった。
綺麗に片付いたお部屋。あまり使っていらっしゃらないのでしょう。
桐箪笥の引き出しを開けるとお着物が皺なく収められていた。
「ご本人がいないところで、箪笥の中を拝見するのは、なんだか悪い気がしますね。」
「大丈夫ですよ、兄上が使って良いと言いましたので。」
千寿郎さんはいくつか着物を出して見せてくれた。
その中で比較的お召ではないものをと手渡してくれた。
「ありがとうございます。」
「帯はどうしますか?」
「そうですね…ではこちらの藍のものをよろしいですか?」
「はい、使ってください。…あとは布団ですね。客間に一式ありますので、ひきに行ってもいいですか?」
「私が出しますので大丈夫ですよ。どうかあまり気を遣わないでください。」
千寿郎さんはまだ夕餉の支度が終わっていないので助かりますと言っていた。
私は部屋へ戻り、千寿郎さんはお支度をされに。
炎柱様のお着物…本当に気が引けます。つるばみのお色に袖を通すと、やはり少し大きい。裾は帯でたくし上げれば問題なく着れた。それから髪を結い直し、千寿郎さんのお手伝いのために炊事場へ。
殆ど終わっていたので盛り付けぐらいでしょうか。
「私もお手伝いいたしますね。お皿はこちらを使ってもよろしいですか?」
「ああ、すみません。お願いいたします。」
主菜、副菜を皿に盛り付け、お盆に乗せて食卓へ運び並べた。
三人分なので何度か往復した。いつも一人の食事なので、私はなんだかワクワクしていた。
「お味噌汁、よそいますね?」
「ありがとうございます、お願いします。」
千寿郎さんは炊きあがったお米を御櫃に移していた。お茶碗は近くにあるので大丈夫…あとは湯呑ですね。
お盆にお味噌汁の椀と湯呑を乗せて、持ち上げたところ。
千寿郎さんではない、炎柱様でもない人が入ってきた。
この方がお父上様だとすぐに分かった。髪の色が全く同じなのですから。
「父上!今日は一緒に召し上がりますか?」
千寿郎さんは嬉しそうな声をしていた。きっといつもはご一緒ではないのね。
お父上様は黙って頷きながら座られた。
そして私の方を訝しげに見ていた。
「また女の隊士を取ったのかアイツは。」
