第10章 氷
氷はとけて水になり、また凍る。形を変えて。
私という人間を表すならそうだ。
継子解消となり、どうしようもない絶望に打ちひしがれた。
彼の人のような強さを身につければ、功績を残せるようになれば、亡き家族に堂々と顔向けできると思っていた。
その道は絶たれた。
だからといって諦めてはいけない。短い間に教えてもらったものは沢山ある。一つも取りこぼさずに、これからも地道に積み上げていかなければ。
でなければ炎柱様にとっても名折れとなりかねない。
あれほど熱心に教えてくれて、励ましてくれたのに。私の身体を気遣って決断してくださった。例えもう会うことがなくとも私はまだやらねばならない。
そうやって鼓舞するも、最後にはベットに横になってぼんやりと天井を眺める。
そしてふと思い出してしまうのは、お庭で炎柱様と音柱様の会話だ。
(俺は月城のことをどうやら気になっているかもしれんが、君はどうだ!?)
声が大きいので丸聞こえなのですよ。聞いたときは驚きました。同じく療養中の男性隊士に「そういう関係だったのか」としつこく聞かれた。思い返してもそう受け取れるようなことは一つも無かったというのに。
きっと気の所為ですよ、と心の中で返事した。
私は貴方のような温かい人ではないから。
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幼い頃、どちらかといえば活発な少女だった。
弟二人といつも走り回って遊んでいた、と父も母も言っていた。
貿易商の仕事をする父母は家を留守にすることも多く、そんなとき私達を育ててくれたのは京都から来た女中だった。一つ一つの作法が美しく、頭の天辺から手足指の先まで美しく見える所作を彼女に教わった。
他にも料理や掃除や、遊び相手もしてくれた。
「まるたけえびすに おしおいけ〜 あねさんろっかく たこにしき〜」
彼女が歌いながら私が手毬をつく。
弟たちが廊下を駆け回って転べば一緒に慰める。
父と母が帰れば豪華な料理が並び、食卓は華やいだ。父母は、いつも外国からの土産物を持って帰ってきてくれた。絵本や、流行りの玩具。洋服も。私と弟たちは大きくなったら貿易の仕事を継ごうと思っていたし、そういうものだと思っていた。
あの日までは。