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「鬼の花嫁」世界に迷い込む

第8章 賑やかな祭りではご用心を




ある日の午後─…


夕日に染まる花街から出て屋敷に戻ろうとする珊瑚色の髪を持った男


八一
(はぁ…匂いきつ…)


情報収集の為に花街の女性と会話をしている時は甘い笑顔を浮かべていたが、彼女達と離れた瞬間に八一は顔を顰め口を手で覆う。

過去の癖を生かして胤晴の為に様々な女性と話、触れ合うが強い匂いだけは八一は慣れる事は出来なかった


八一
(あんなきつい匂い纏ってて気持ち悪くならねぇのかよ…)


内心での悪態が止まらないのはいつもの事だ。食べ物がとても貴重だった八一は少しの匂いも嗅ぎ分けられる様に鼻が他人よりも良くなった為に、女性の匂いが辛かった。

何とかして屋敷の門を潜ると結莉乃が洗濯物を取り込んでいた。女中がやる事を手伝いたいと申し出て彼女達と協力して結莉乃は家事をやらせてもらっている。


結莉乃
「あ!八一くん!お帰りなさい」


持っていた敷布団の布を籠へ入れる。彼女の姿を見た瞬間に八一は安心したのを感じる。

素朴で…それでいてどの女性よりも綺麗に、思惑も無く笑む結莉乃の迎えに八一の身体はふらりと揺れ…


結莉乃
「え!?何事!?」


気が付いたら結莉乃を抱き締めていた。突然の抱擁に結莉乃は目を丸くし、声を上げる。その声にも媚びが無くて八一を更に安心させた


八一
「はぁ…落ち着いた」


彼女の仄かに香る花の様な匂いに八一は息を吐き出す。いきなりの事で驚き身体が硬直している結莉乃を抱き締める腕に少し力を込める


結莉乃
「ど、どうかした…?」

八一
「いや。驚かせて悪かったね」


そう言うと八一は結莉乃から腕を離し、何も無かったかのように屋敷へ戻って行ってしまう


結莉乃
「何だったの…?」


一人取り残された結莉乃は今の出来事が上手く処理できずに首を傾げるが、勿論それに答えてくれる人は誰も居ない。

少しの間ぼーっとしてしまったが、慌てて洗濯物を取り込み八一の事はただの気紛れとして処理する事にした



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