第1章 毎日が普段通りとは限らない
結莉乃
「え…でも、先程これで良いと…」
「だから、状況が変わったと言っただろう。分かったら、明日までに訂正してくれ」
結莉乃
「…はい」
理不尽に押し返された資料を持って自身のデスクに戻り、小さく息を吐き出したのは華岡 結莉乃。
上司の嫌がらせなのか本当にそういう状況なのかは分からないが、コロコロと変わる言葉に毎日うんざりしていた。
結莉乃
(まったく…家庭のストレスを職場で発散しないで欲しいよ…!)
だが、彼女が落ち込むのは数秒で理不尽な物言いに内心で悪態を吐く。そして、パソコンのキーボードに手を乗せるよりも先に明るい声が彼女の耳に届いた。
「まぁた八つ当たりされたの?」
声を潜めながら声を掛けてきたのは結莉乃の隣のデスクで同期である、佐伯 美優だった。
彼女の言葉に返事をしようと少しだけ顔を近付けて同じ様に声を潜める
結莉乃
「そう。言ってる事がさっきと違うの」
美優
「定番のやつだ。…今日を乗り切ったらお泊まりだし!それ楽しみに頑張ろ?」
結莉乃
「ん、そうだね」
明るい笑顔と言葉に結莉乃は頷いた。明日が休みだという事もあり美優の家で泊まろうという話になっていて、それを思い出した結莉乃は憂鬱だった資料へと取り掛かるのだった。
業務時間が終了となり結莉乃は開放された様に、ぐっと両腕を伸ばしながら隣にいる美優へと視線を向けると彼女はまだ指を動かしていた
結莉乃
「美優?」
美優
「結莉乃、ごめん!私少しだけ残業してく!」
結莉乃
「ええ?」
美優
「本当に少し!これだけ終わらせたいの」
結莉乃
「そっか。なら待ってるよ」
結莉乃の言葉に美優は首を横に振ってから申し訳なさそうに笑む