第10章 帰ってきたと思える場所
腹部を擦りながら八一は立ち上がる
八一
「痛いなぁ…鍛錬なのに容赦ない」
天音
「ハッ…鍛錬なのに加減してたら駄目だろ。ンな温い事言ってたら本番で命落とす事になンだぞ。鍛錬だと思うな」
八一
「ふーん、確かにそうだ」
天音の言葉に八一は納得した様に頷いて、片方の口角を上げて笑う。そして再び二人の距離が縮まり木刀がぶつかり合う
八一が脚元に出した木刀を天音が飛んで避ける瞬間に八一が天音に回し蹴りをする。無防備な瞬間が生まれた天音は、その蹴りが入り軽く飛ぶがすぐに踏み込み木刀を振り下ろす
八一
「…っと」
天音の木刀を受け止めた八一に、天音は追撃をかけ何度も八一の木刀を叩き続ける。その強さに八一の表情は歪む
先程までと八一の動きは違い、鍛錬だと思いながらやっていたのが天音の言葉で変化したようで結莉乃には本気に見えた。それでも天音の方が上回っているのだと、改めて天音の強さを理解する
天音
「オ…ラッ…!」
八一
「くっ…」
今まで叩いていたよりも高く振り上げた木刀を同じ場所に叩き付けてから、天音は八一の脇腹に木刀をめり込ませた。八一は小さく咳き込み片膝をつく
八一
「はぁ、また負けた」
天音
「…ほら」
八一
「ありがとう」
ぶっきらぼうに差し出された天音の手を八一は掴み立ち上がらせてもらう。八一が珊瑚色の髪を軽く掻き上げてから結莉乃が居る方へ振り向く
八一
「いつまでそうしてんの?」
天音
「見てたって力にはなンねェぞ」
結莉乃
「き、気付いてたの…?」
天音
「ハッ…たりめェだろ」
気付かれていないと思っていた結莉乃は苦笑しながら二人へと近付く
結莉乃
「八一くんが戦ってるの何か新鮮だった」
八一
「俺も一応、胤晴さんの下に居るからね。それなりに戦えないと彼の期待と命令に応えられないし…町の人を傷付ける訳にもいかないしね」
結莉乃
「ふふ…流石だ」
胤晴の下に居るから、町の人を傷付けたくないから…全員がこの気持ちを持っているのだと…結莉乃は思わずそう呟いて笑みを浮かべていた