第8章 賑やかな祭りではご用心を
八一
「もうすぐ花火ですって、胤晴さん」
胤晴
「少し丘の上に行くか」
結莉乃
「花火…!」
眞秀
「お、花火好きか?」
結莉乃
「好き!最近はゆっくり花火を見る事も出来なかったから…楽しみ」
慎太
「結莉乃の居た世界はそんなに忙しいのか?」
結莉乃
「え?」
八一
「確かに、最近はしてないって事多いね」
結莉乃
「んー…確かにそうだったかも。忙しくて余裕無かったから」
気が付けば此処での居心地の良さと現代では経験しない事ばかりをしているせいか、結莉乃は現実の事を忘れていた。
毎日、上司にネチネチとした嫌がらせをされ仕事に追われていた日々とはかけ離れた此処での生活は息がしやすく、心に余裕が出来ていた
天音
「ンなら、存分に楽しみゃ良い…そンだけだろ」
結莉乃
「天音くん…」
素っ気なく見えるけどいつも優しい言葉を掛けてくれる天音に結莉乃は気持ちが柔らかくなる
─ドォンッ
眞秀
「お、始まったな」
結莉乃
「綺麗…」
凪
「ほら、危ないですよ」
思わず脚を止めて空に咲いた火の花を見上げてしまった結莉乃に凪が優しく注意する。その声に反応して結莉乃は歩いて行く皆の背中を追って歩き出す。その間にも腹部に響く花火の音が何度も鳴る
その騒音までも掻き消してしまう花火の音に紛れ、微かに綺麗な声が結莉乃へ届く
「華岡結莉乃さん…ですね?」
結莉乃
「え?」
結莉乃が振り向くよりも先に彼女の首元で、カチャっと音が聞こえた
「声を上げずついてきてください」
結莉乃
「なっ…」
「お願いします」
耳に聞こえる凛とした綺麗な女性の声は、どことなく申し訳なさが含まれている様に結莉乃は思いついて行く事を決める。遠ざかる彼等の背中を見詰めてから結莉乃は彼女へ頷く
「ありがとうございます」
首元あったのは恐らく刀。その刀が下ろされると彼女は結莉乃の腕を優しく掴みながら歩き出し…二人の影は闇へ溶け込んでいった