第13章 吸血鬼に激しく奪われて…(杏寿郎の場合)
……くっ、少し油断してしまった
我ながら不甲斐なし…であるな
ここ数日、連続で寝ずの調査や任務が重なっていたとはいえ
…あのような弱い鬼に目を突かれ、深手を負わされたとは未熟極まりない!
などと膝を付きながら考えていると
『炎柱様っ!到着が遅くなり、申し訳ありません…っ!』
かなり足の早い隠が1人、目の前に現れた
女人のようだが身体能力的には隊士でもおかしくないな
しかし、まずいな…
確か、鴉で(男の隠の派遣)を頼んだはずだが
正直、かなり血が飲みたい
男ならそんな気は起きぬがうら若き女性となると…
いかん、未熟者め!気合で耐えろっ!
そんな葛藤の間に
『かなり重傷ですね。動かないで下さい。今、輸血パックをお渡ししますので』
出血量が多く状態があまり良くないと判断し、その場で血を提供する隠
なかなかに冷静だ
やられたのは片目と腕だが、血さえ飲めばすぐに回復するだろう
しかし、開封された輸血パックに口をつけると
何故か拒否反応で吐き出してしまった
飢餓状態でツラいのに何故だ?
『お口に合いませんか?…困りました、私の持ち合わせは今はこちらしか無いので…』
なるべく容姿を見ずにいたのに
その声に惹かれ見やると
澄んだ瞳
半分隠れていても愛らしい顔
色素の薄い肌
ぐぅぅ〜っ…
そこで豪快に腹の虫がなってしまう
些か恥ずかしくて目線を外す
『…私の血をご所望ですか?』
「……正直な話、かなり欲してはいるな」
『こうなりそうだったから、(男の隠)を希望されていたのですね?』
少し間があき
「その通りだ。すまぬが…他の隠が来るまで距離を、とってはくれまいか?」
『近くにいた隠は私だけでして…他の隠が来るのを待っていてはかなり危険な状態になります!』
「……分かってはいるが、今1番危険な状況なのは君だが?」
炎のように光り揺らめく瞳で射竦められ
その瞳から目を離せず、治療しなきゃと思うのに上手く動けなくなってしまった
今の炎柱は怪しい色香すら感じ、求められたら吸い寄せられてしまいそう
「…お嬢さんの名は?」
『神凪…みずきです』
「…ふむ、良い名だ」
白く美しい牙を見せながら
優雅に手招きをされ
「…おいで、神凪」