第9章 9、夢
海岸近くの倉庫。
そこに彼女は居た。
血だらけで。
携帯はあの後壊されたのか散り散りになっていた。
あまりにも惨い現場だった。
『ゆめ、、、。』
体温が無くなり、温くなった頬に左手を伸ばし、右手は彼女の手を握る。
どうして彼女が死ななければならなかったのか。
それは、
僕が武装探偵社の社員だから。
最近話題に上がっていた新しい組織からの挑戦状として、彼女は殺された。
『ゆめ、愛してる。』
返事の無い言葉は空気になって溶けていく。
苦しみの末息絶えただろうその顔に、口づけをする。
ふと思い出すのは、彼女と出会った時。
太陽の様な笑顔を見せ、誰しもを笑顔にする彼女。
次に思い出したのは、彼女に告白をした時。
鈴の様な軽やかな音で「はい、」と照れながら答える彼女。
そして最後に、彼女と素敵な時を過ごしたあの日々。
喧嘩もした、何でも言い合った。大好きだった。
大好きだった彼女は、
笑顔を失い、
声も出すことは無く、
血みどろになり横になっている。
幸せな日々は夢だったのかもしれない。
武装探偵社として生きる僕は、
普通の人間として、普通の人を愛する事は許されなかったんだ。
『ゆめっ、、、ゆめ、、、!!!』
目の奥が熱くなって、鼻の奥がツンと痛む。
『起きてよ、、、、一緒に駄菓子を買いに行こう、、、?』
溢れ出る涙は僕の頬を伝って、彼女の顔に落ちる。
それでも、ありふれたハッピーエンドの物語の様に彼女が目を覚ますことはなくて。
その後僕は、社長が迎えに来るまで、大好きな彼女の下で泣き続けた。
ごめんね、ゆめ。