第10章 翔くんVSさとしくん、の巻
長閑な土曜の昼下がり
何時もの公園のベンチ
何時もの君の笑顔
何処からか、子供のはしゃぐ声が聞こえる
ベビーカーを押しながら、ゆっくりと俺達の前を通り過ぎる若い母親
その母親の肩を大事そうに抱いて歩く父親
もつれる様に走りながら、両親を振り返って見る子供
通り過ぎて行くありきたりの風景
俺達が何年経っても手に入れる事の出来ない日常
笑顔の君に宿る、仄かな羨望の眼差し
「智くん、俺って本当に幸せ者だと思わない?」
「何で?」
「だってさ、何年経っても、何十年経っても、智くんの事一人占めして居られるんだよ?
だってほら、俺ら子供出来ないから」
「……そうだね」
優しく微笑む君の瞳が揺れている
何時も通りの馬鹿な戯言を言う俺を、愛しそうに見詰めてる
若い親子と入れ違いで、老夫婦が俺達の前を仲良く手を繋いで通り過ぎる
ポケットから出されたお婆さんの手からハンカチがポロリと落ちる
君はそれを素早く拾ってお婆さんに手渡す
「ありがとう、お嬢さん」
お爺さんが、お婆さんの代わりにお礼を言う
君はにこやかに会釈して老夫婦を見送った