第9章 ハッピーウエディング、の巻
「うん」
「んでさ、黒のタキシード着た時にさ、シルクハット持ったじゃん?」
「うん」
翔くんは相槌をつく僕の方には目もくれず、真剣な顔をして相変わらず手のひらを拭いている
「俺さ、なんか緊張しちゃってさ
そんで半端ない手汗かいてたもんだから、なんか帽子の黒いのが付いちゃってさ
…手、真っ黒なんだよね」
「…え?」
翔くんが一生懸命拭いてる手元を見ると
なるほど、手のひらと指先が黒くなっている
「うそ、アレって色落ちするモノなの?」
「ん〜、解んないけど、他に黒いモノ触って無いし…」
「あのさ、まさかと思うけど…白のタキシードに決めた理由って…」
「ん?」
僕の声が低くなったので、翔くんがやっと僕の方に目をやった
「手に、黒いの付くと嫌だったから、白にしたの?」
「へ?」
翔くんは暫くポカンと僕の顔を見ていた
それから急に顔の前でブンブン手を揺りながら言った
「イヤイヤイヤ!違うって!!」
「本当?」
「ホントホント!
だって、俺が黒のタキシード着て智くんの隣に立ったら、何だかお嬢様と執事みたいだったから白にしたんだもん!!」