第8章 智くんのお父さん、の巻
...親愛なる我が息子へ
最後なので、図々しくもそう呼ぶ事を許してくれたまえ
わたしは君のお母さんを本当に心から愛していた
そして、陰ながら君達親子の幸せをずっと祈っていた
だが、彼女は逝ってしまった
あんなに若くして亡くなるなんて、私は夢にも思っていなかった
こんな事を今更言っても仕方が無いのだが
私はもっと早くに引退をして、妻との間の息子に後を継がせるつもりでいた
そして、彼女と君を迎えに行こうと思っていた
だが、彼女はそれを待たずに亡くなってしまい、息子もまた、若くしてこの世を去ってしまった
己の欲望で都合の良い事ばかりを考えていた私への罰なんだろう
愛する者に先立たれる悲しみは、言葉では言い様がないものだ
智くん
愛する我が息子よ
こんな私の我儘を叶えてくれようと、君がどれだけその胸を痛めたかことか
君に愛する人が居る事も知らず、勝手を言って、本当に済まなかったと思っている
人は、愛する人と共に歩んでこそ、本当の幸せを得る事が出来るものだ
どれだけ地位や名誉、そして財産を掴もうと、そんなものは世間に対する虚勢でしかない
ふと一人になった時に、愛する者が傍に居ない虚しさは、虚勢を張れば張る程大きくなる
だから、息子よ
彼の手を、決して離してはいけない