第8章 智くんのお父さん、の巻
「うん、大丈夫だよ?…ちょっと考え事してただけ」
「そう?…なら良いんだけど」
病室のドアを見る
(…奥さんに話しを断ったって言ったら、あの人何て言うかな)
僕はドアをノックしようとして上げた手を下ろした
「…智くん?」
「…ねぇ、翔くん」
「ん?」
僕はドアを見つめながら翔くんと繋いだ手を握りしめた
「…僕さ、あの人のお願いを聞いてあげられないのに、あの人にお願いをしたりしちゃ、ダメだよね?」
「お願いって?」
僕は翔くんの方を見た
翔くんは何時も通り、優しい眼差しで僕を見つめている
「………あのね、僕ね…」
僕は一つ大きく息をついてから、翔くんに自分が思っている事を告げた
僕の話しを聞いた翔くんは「智くんったら、もう」って言って笑うと僕を抱きしめた
「そんなの、逆に喜ぶと思うよ?」
「そうかな?それこそ僕の我儘じゃない?」
「あはは、その調子じゃ智くんは一生我儘なんて言えないね(笑)」
「……?」
何で?って思って首を傾げる僕の肩を抱いて、翔くんが言った
「お父さん待ってるよ?行こう?」
「……うん」
僕は今度は迷うことなくドアをノックした