第8章 智くんのお父さん、の巻
「そうです。
さあ、素直に言う事を聞いて下さった方が貴方がたの為にもなるんですから」
「…解りました」
「智くん!」
智くんが俺の肩口から男を伺う様に見て言った
「…でも、お見舞いに行きたいので、長話をするつもりはありませんから」
「結構です…では」
男が踵を返して歩き出した
「…智くん…良いの?」
「……うん、翔くんが居てくれれば、大丈夫」
そう言って俺の手を握りしめた智くんの手は、掴まなくても解るくらいに震えていた
(絵に描いたみたいなマダムだな)
連れて行かれた、病院には似つかわしくない豪華な応接室で俺達を待ちうけていたのは
いかにもお金持ちのマダムですって感じのおばさんだった
なかなかの威圧感を放つそのおばさんを前にして、俺はさっそくへっぴり腰になっていたが
智くんに至っては、緊張のしすぎなのか、若干怯えているように見えた
「奥様、お連れ致しました」
黒ずくめの男が改めてそう言うと
さっきから其処に居るのを気付いていた筈なのに、わざとらしく今気がつきましたみたいな顔をして俺達の方に目線を巡らして
おばさんが苦々しく言った
「ホントに、あの女そっくりね」