第8章 智くんのお父さん、の巻
「ねぇ、翔くん…今度の土曜日ね、一緒に行って欲しい所があるの」
「ん?行って欲しいトコ?」
今日も智くんが心配で早めに帰宅したのだが、智くんは思ったより落ち着いていて一安心
…なんて思っていたら、俺の空になったグラスにビールを注ぎながら、智くんが俺の顔を伺う様に見て言った
「…うん…」
「いいよ?何処に行きたいの?」
「…お母さんのお墓」
「ああ、お墓参り?
そう言えばお彼岸は忙しくて行けなかったしね」
「…うん…それとね…」
智くんはビール瓶をテーブルに置いて、ふぅ、と一つ息を吐いた
「……アノ人の、トコ……」
「あの人って…智くんのお父さんのコト?」
「……」
智くんは黙って頷いた
智くんは、彼のお父さんを口に出して“お父さん”とは一度も呼ばなかった
どんなに良い人だと解っても、彼の母親との間にどうしようもない理由があったにしても
結果的に母親を捨てた父親を、心の何処かでまだ許せないでいたのかもしれない
「俺は全然構わないけど…いいの?」
「……一緒に、行って欲しいの…翔くんに、会って貰いたいんだ…あの人に……それで……」
智くんは俯いた視線を握りしめたビール瓶に落したまま、呟くように言った
「……一緒に、考えて欲しいの…
…どうしたら良いのか…あの人に直接会って、翔くんと、一緒に…
…どうしたら良いのか決めたいんだ……僕」