第8章 智くんのお父さん、の巻
何となく、解る様な気がした
きっと、母はこの人をとても愛していたに違いない
だから、この人の夢を叶えるチャンスを、自分の為に潰して欲しくなかったんだ
「…愚かな私は、それでも彼女を手放す事が出来なかった…
…結果、彼女にもっと辛い思いをさせる羽目になってしまった…」
そう言ってその人は、辛そうに痩せ細った自分の頬を両手で擦った
「……君が出来たと知った時……私は妻と別れるつもりだった……」
「……え?」
その人は頬を覆った手をパタリと落して僕を見た
「……だが、その前に妻にその事が知られてしまって…
…君のお母さんを妻が無理やり私と別れさせてしまったんだ…」
「……」
「…妻が、どんな酷い事を言ったのか、私には想像もつかないが…
…彼女はそれきり、私の前から姿を消してしまった…」
「……」
「…必死になって彼女を探したよ…そして、見つけた…
…だけど君のお母さんは、もう二度と逢いに来てはいけないと言った…」
「…お母さんが…どうして?」
「…妻と約束したんだそうだ…
…子供を産むのを許してもらう代わりに、二度と私に逢わないと…」
憔悴しきった様な顔をしたその人の目に、うっすらと涙が滲んでいた