第8章 智くんのお父さん、の巻
母は孤児だった
それこそ、父親の顔も母親の顔も知らずに育ったのだそうだ
孤児だった母には、高校に進学するお金もなく
中学を卒業すると孤児院で小さな子の世話をしながら、近所のカフェでバイトをして暮らしていたらしい
そんなある日、母は父と出逢った
たまたま立ち寄ったカフェで働いていた母に一目惚れした父が、毎日の様に母の元へ通って口説き落としたのだと言う
母は19才
父は32才
でも、そんな歳の差は、それから訪れる障害に比べたら、何て言う事もないものだった
母と彼は、人知れず愛を育んだ
だけど、幸せは長くは続かなかった
「私は当時、政治家を目指してある先生の秘書をしていてね…それが、今の妻の父親だよ」
「……」
「…つまり、その先生の地盤を継ぐ代わりに、娘と結婚しろと言われて…それを呑んだ訳だ」
「……母は、何て?」
「……私が言うと、言い訳にしか聞こえないのだろうけど…
…その話しを断ろうとしていた私に、結婚をするように勧めたのは、彼女の方だったんだよ」
「……」