第8章 智くんのお父さん、の巻
「え?嘘…今何時!?」
「起きなくても良いよ、智くん…俺、もう行くから」
行くって…嘘でしょ?僕どんだけ寝坊して…
「疲れてたんだね…今日はバイト休みでしょ?ゆっくりしてな?」
「……翔くん」
翔くんは僕の髪を撫でながら、ちゅって優しくキスしてくれた
「じゃあ、行ってくるね?」
「……ぅん、行ってらっしゃい」
もう一度軽くキスをして、翔くんは部屋を出て行った
「………翔くん、ゴメンね……ありがとう」
僕は翔くんの出て行ったドアを、ベッドに横になったまま見つめていた
(……お母さん…僕、どうすれば良いだろう……)
僕は昨日、“父親”に会って、ずっとそうだって信じていた事が、ガラガラと音を立てて崩れてしまうのを感じた
だって…昨日会った“父親”は、僕が思い描いていた人物像と、全く逆の人だったから…
その人は、望んで母を捨てた訳ではなかった
その人は、別れた後も、ずっと…
母が亡くなった今も尚、母の事を愛していると言った
「君と、君のお母さんには…本当に…済まない事をした…謝っても……謝りきれないよ…」
そう言って
青白い顔をしたその人は、僕に母との事を、ぽつり、ぽつりと語り始めた