第8章 智くんのお父さん、の巻
(…本当は、誰だったのかな)
幼かった僕は、そのおじさんの言った事を鵜呑みにして、なんの疑問も持たなかった
だけど少し大きくなった僕は
そのおじさんがお花屋さんにしてはとても立派な風格をしていた事とか
凄く丁寧な言葉遣いだった事に気がついた
それでも僕は、そのおじさんについて母に尋ねる事はしなかった
本当は、そのおじさんの事を色々聞きたかったのだけど…聞けなかった
何故なら遊園地から帰って来た僕が、今度はお母さんと僕とおじさんの三人で行きたいって言った時
母が酷く悲しそうな顔をしたからだ
(…なんで、あんなに悲しそうな顔をしてたのかな)
その事を考えて、僕は酷く落ち着かない気持ちになった
その事の真実を知った時…僕が今まで信じていた事が根本から崩れてしまう…
…僕には、そんな嫌な予感があった
「今日取り敢えずあの人に会いに行ってくるから」
何時も通り玄関まで翔くんを見送って、また会社に行きたくないとか駄々をこねる旦那様にカバンを握らせながら言った
「今日?一人で行くの?」
「うん…あ、この前の秘書の人が車で迎えに来てくれるって」
「俺が帰って来てからじゃダメなの?
智くんを一人で行かせたくないよ…」
握らされたカバンを放り投げて僕の両腕を掴むと、翔くんが心配そうに言った
僕は翔くんが投げたカバンを拾ってもう一度手渡した
「病院だから、面会時間がね…大丈夫だよ、今日はスグに帰ってくるから」