第38章 忘却の彼方に…、の巻
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「………」
相葉ちゃんのBARから帰って来て、翔くんをお風呂に入れた僕は
『片づけをするから』と称して、ぼんやりと考え事をしていた
(……ごめんね、まだ……話せない……)
失ってしまった大切な君のコトを、僕が思い出しているんだって
翔くんは、気付いたのだろうと思う
そもそも、そうさせるようなコトを匂わせて言ったのは、自分自身だった
だけど、そのコトを……君のコトを思い出したんだってコトを、口に出して言う事は
僕にはまだ、出来そうに無かった
(………ごめんなさい、翔くん………ごめん………僕………)
翔くんが買って来てくれたカサブランカの花に向かって、小さな声で呟く
「………僕………僕………
………………怖いんだ///」
君のコトを話すと言うコトは
あの日あったコトを口にしなくてはならないってコトで
つまりは
そのコト明確に思い浮かべなくてはならないと言うことを意味していた
だけど、そのコトを…
あの人から受けた仕打ちと非道い言葉のコトを、覚えてはいるものの
頭の中で形にして、はっきりと思い出すのが、僕はどうしても怖かったのだ
あの時の情景が頭にハッキリ浮かびそうになると、叫び出したくなるような恐怖が僕を襲う
…それで、その恐怖に負けて正気を失って、また記憶までも失ってしまいそうで…
……怖かった