第38章 忘却の彼方に…、の巻
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鞄を抱え時計を見ると、丁度長針がかちりと、文字盤の『12』を指した
「んじゃ、お疲れさま」(←就業時間ぴったりに帰る男)
「おつかれぇ〜」
「………」
俺は、ご機嫌な村上に手を振られて微妙な気持ちになりつつも
足早にオフィスを後にした
「…あ、智くんからメールだ♡」
駅に向かって行く道すがら、ポケットの携帯が震えたので取り出し確認したら、愛妻からのメールだった
「なになにぃ〜♪」(←もうご機嫌(笑))
さっきまでの微妙な気分はすっかり吹き飛んで、ルンルンしながらメールを開ける
〈しょおくん、お仕事お疲れ様♡
今日はねぇ、久しぶりにギャラリーに行って絵を描いてきたの♪
でねぇ、ニノが遊びに来てくれてねぇ
そんでねぇ、今、ニノと一緒にLotusに来てるの♡
ニノが、『画家業再開記念』してくれるって言うから、しょおくんも来て♡
待ってるからねぇ♡
─さとしより♡─〉(←て言うかハートマークばっかっすね(笑))
「ああ、相葉くんとこ行ってんのか」
メールを読んで、そう言えば智くん、1ヶ月以上絵を描いて無かったんだっけなと思ながら
俺は早速愛しの画伯にメールの返信をした
「え〜っと……
大野画伯、お疲れ様っす♡
今駅に向かってるとこだよ♡
直ぐLotusに行くから、待っててね♡
愛してるよ、智くん♡♡
…で、送信っと♪」(←此方もハートばっか(笑))
メールの返信をして、足早に駅へ向かう俺
と、駅前の花屋が目に留まった
「よし
再開記念に、画伯に花束でもプレゼントしようかな♪」
俺は、ルンルンしながら花屋に入ると、智くんの好きなカサブランカの花束を買った
「………」
カサブランカの花束を見ながら
俺はふと、智くんが毎月、お母さんの月命日にカサブランカの花を買って来ることを思い出した
「……来週、だな……あの子の、月命日」
産まれて来ることが出来なかった、俺と智くんの…
「……来週も、買って帰ろうかな……カサブランカ」
俺は、手に持った花束を見ながら
小さく呟いた
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