第38章 忘却の彼方に…、の巻
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「……思い出すべき、時…?」
「うん
だから今は、その時じゃないって事なんじゃないかな」
「………」
大事な何かを忘れている
そんな、胸の奥にくすぶっているもやもやしたモノは、まだ消えはしなかったけれど
優しい翔くんの微笑みで、不安がふっと消えていく
─それで、良いんだよ
「え?
翔くん今、なんか言った?」
耳の奥で、誰かの囁き声が聞こえた気がしてそう訊くと
翔くんが優しく微笑んだまま答えた
「何も言ってないけど、俺の心の声が聞こえたんじゃない?
“智くん大好き、愛してるよ”
ってさ(笑)」
「翔くん////」
「………何でたった1日で思い出しちゃうんですかねぇ
いっそ、1ヶ月くらい忘れてりゃ良かったのに。」
手を取り合って見つめ合う僕らを見て、ニノがとってもイヤそうに呟く
それからニノは
「これ以上あんたらがイチャイチャしてんの見てたら胃がもたれる」
とか言って、帰ってしまった
「……ニノ、帰っちゃったね、翔くん」
「……そうだね、智くん」
しっかりと手を握り合ったまま、二人してニノが出て行ったドアの方をぼーっと見つめる
「……僕、1ヶ月くらい寝てたの?」
「……うん、まあ……そうだね」
ドアから視線を翔くんに移してそう訊くと、翔くんが曖昧に笑いながらそう答えた
「……翔くん?」
「なぁに、智くん」
「……なんか、隠してない?」
「あ、バレた?」
翔くんは、そう言ってにまっと笑うと
そっと……そっと、僕の唇にその唇を重ねた
「……病み上がりなのに、さっきから智くんに欲情してんのを、隠してる(笑)」
「……ばか///」
僕は、熱くなった顔を翔くんの胸に押し当てると
翔くんの背中に腕を回して、ギュッと抱き付いた
「……今日、僕、お誕生日なんでしょう?
だったら、欲しいものがあるの///」
「なに?」
「……1ヶ月分の、翔くんの愛……僕に……ちょうだぃ?///」
「了解致しました、奥様(笑)」
「うふふ……ふ、ん…///」
翔くんは、ちょっとふざけながら僕のリクエストに応えると
優しくキスをしながら、僕をゆっくりとベッドに押し倒した
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