第38章 忘却の彼方に…、の巻
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(……何、今の……)
「……良い、人……」
「うん、この俺が認めてるんすから、間違いないっすよ(笑)」
「………」
無くした記憶が蘇りそうで…
…でも
結局もやもやしたまま、忘却の闇に沈んで行く
(…やっぱり僕、あの人のコト知ってるんだろうか…)
思い出しそうで、思い出せない
…いや
思い出せないと言うよりは、思い出すコトを心が拒んでいると言った方が正しいかも知れない
だけど僕は、やっぱりあの人のコトが気になってしまって
恐る恐る、ニノに訊ねてみた
「…ねぇ、あの人は…どうしてるの?」
ニノはソレを聞くと、僕の体をちょっとだけ話して、僕の顔を覗き込んだ
「あんたが“あの人は呼ばないで”なんて言うもんだから、ショックで気絶しちゃいましたよ(笑)」
「えっ…?///」
「ま、すぐに眼が覚めるでしょうけど、間違ってももう“あの人”なんて呼ばんでやって下さいね
せめて、“櫻井さん”って呼んでやって下さい(笑)」
「………うん///」
僕に“あの人”と呼ばれて、ショックの余りに気を失ってしまったと聞いて
何故だか胸がキュンと高鳴る
(……なんだろ、コレ////)
カサカサだった心が、暖かく潤って行く
…そんな、ほんわかした感覚
(……知ってる……僕は、知ってる……
……この、感覚を……)
『……智くん……』
また、あの声が僕を呼ぶ
…と、寝室のドアからまた誰かが顔を出した