第38章 忘却の彼方に…、の巻
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「智、大丈夫か?
気分が悪いのか?」
小さく唸ったきり、頭を押さえて黙ってしまった僕に
潤くんが心配そうに声をかけた
僕は、その声に小さく頷いて顔を少し上げた
「………大丈夫……ちょっと、頭が痛かっただけだから」
「そうか……まだ、痛むのか?」
「ううん、もう平気だよ」
「そうか……良かった」
「…………」
(どうしてだろう……心が……スカスカする)
大好きな潤くんが、僕のことをこんなに心配してくれてるのに
…何故だか心がスカスカして
何かが、足りないと…そう、感じる
足りない何かを補う鍵は、多分…あの、櫻井さんって人が握っているんだって…解ってる
だけど僕は
ぽっかりと穴の空いてしまった心が……あの人を思い出すコトを、拒絶しているんだとも思った
あの人が、僕の今の恋人だと言うのであれば
時折脳裏を掠める僕を呼ぶ声は、彼のものなのかも知れない
だけど、僕は……それを確かめたくなかった
確かめたら…あの人のコトを思い出したら
僕が、壊れてしまう
そんな言い知れぬ予感が、僕にあの人を拒ませていた
「大野くん」
ベッドの上で上半身を起こして俯いたまま、また黙り込んでいたら、ニノの声に呼ばれた
顔を上げると、ドアから顔を覗かせているニノと眼があった
「俺らはもう帰りますけど…大丈夫ですよね?」
「俺らって……潤くんも、行っちゃうの?///」
不安になってそう言って潤くんを見たら、潤くんが困った顔をして答えた
「ごめん、智…」
「潤くんが帰るなら僕も帰る!!///」
「あんたの家はここですよ、大野くん」
慌ててベッドから飛び降りる僕を見て、ニノが部屋に入ってくる
それから、ゆっくりと僕に歩み寄って
ぎゅっと僕を抱き締めた
「………あんたは、強い人だ
俺は、そう信じてるよ」
「……ニノ……」
僕をしっかりと抱き締めて、ニノが耳元で囁く
「大丈夫………ああ見えて櫻井さんは、めっちゃ良い人ですから、心配しないで」
『大野くんさ…櫻井さんって、マジで凄くいい人だよ』
「………え?」
不意に
ニノが言った台詞が、記憶の中に埋もれた台詞と重なった
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