第38章 忘却の彼方に…、の巻
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(僕が、潤くんと別れられる訳がないんだ
だって、僕は…)
─ガチャ
眼を閉じて傷痕を辿っていたら、ドアが開く気配がして、目を開ける
「ああ、眼が覚めたのか智」
「……うん」
僕は、部屋の入り口でにっこりと微笑む潤くんに、小さく頷きながら答えた
それを見て、潤くんがドアの向こうに呼び掛ける
「櫻井くん、智の眼が覚めたよ」
「あの人は呼ばないで!///」
「え…?」
突然大声で叫ぶ僕を、潤くんが目を丸くして見る
その後ろで、バタンと何かが倒れる音がした
「あ〜あ、気絶しちゃったよ」
「……櫻井くん、可哀想に」
ニノの呆れた声と、相葉ちゃんの気の毒そうな声が聞こえる
潤くんは、ドアの向こうを見て深い溜め息をつくと
僕を見て眉をひそめた
「…智、お前…」
「……ごめんなさい、でも……
潤くんと別れて、あの人と暮らしてるだなんて……僕、どうしても解らないって言うか……
……あの人と、一緒にいるのが……
…………怖いの」
「…智…」
「……ごめん、なさぃ……」
「俺に謝ることなんか無いさ、ただ…」
「……あの人にも、悪いって思うけど……
……だって、僕、本当に……
……あの人のコト、知らないんだもの///」
僕は言いながら俯いて、ギュッと掛け布団の端っこを握った
ずいぶん、長いコト意識を失っていた
…それは、解る
なんとなく、そんな気がする
だけど
眼が覚めた僕は…自分が置かれている状況にどうしても納得がいかなかった
(だって僕は…僕は、潤くんの恋人でしょ?
確かに潤くんは結婚しちゃったけど…
…僕の為に、部屋を用意してくれて…
…それで…)
……それで……?
「………ぅ///」
「大丈夫か、智」
意識を失ってしまう前のコトを思い出そうとしたら
頭がズキンと痛んで、気が遠くなりそうになった
…さっき、高島さんと言う偉そうな先生に診てもらった時もそうだった…
先生はそんな僕を見て
今はまだ、無理に思い出そうとしない方が良いと言ってくれた
(だから……思い出さないで、良いんだ……)
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