第38章 忘却の彼方に…、の巻
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ぽっかり、穴が空いてるみたいに
心が、スカスカする
タリナイ
タリナイ
大事な、何かが…
…タリナイ。
『…智くん…』
誰かが、僕を呼んでいる
『…智くん…』
優しく、暖かな声で
僕を呼んでる
『…智くん…愛してるよ…』
潤くんのものではない、その優しく暖かい声の向こうに
心に空いた穴を埋めるピースが、ある気がした
……………でも
『……悪魔め、地獄に堕ちろ』
思いだしなくない
思いだしなくないの
だから知らない
だから僕は、知らないんだ
スカスカの抜け殻で構わない
どうせ、僕は日陰者なんだから
だからお願い
僕に
…僕に、ソレを…
……思い出させないで……
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「………ん………」
浅い眠りから目覚めて、重たい瞼を開けると
見たことの無い天井が目に入った
「…………」
(……見たことが……無い?)
僕は、ゆっくり瞬きをしながら
自分が寝ている見知らぬ寝室を見渡した
(……知らない、部屋……見たことない、景色……)
その、はずなんだけど
(…………知って……る?)
見たことがないって
知らない場所だって思う一方で
何故だか懐かしい匂いがする部屋を
じっくりと見渡す
キレイに片付けられたラックとか
青いカーテンとか
全部、自分の趣味にぴったり合っていて
知らない場所な筈なのに……妙に落ち着く
(でも、ここは……潤くんの、マンションじゃ、ない)
ここは僕が
潤くんから与えられた、唯一の僕の居場所の…
…あの、寂しい鳥籠じゃ、ない…
「………潤くんと、別れたの?
………僕が、潤くんと…?」
(そんなコト、有り得ない)
僕は、ぎゅっと眼を閉じて
脇腹の古傷に手を乗せた
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