第38章 忘却の彼方に…、の巻
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「……………」
投げつけられた箱ティッシュが、俺に当たってコロンと足元に転がる
それを見ながら、何時もだったら智くんが
「んもぅ、翔くんったら♡」
とか言いながら、垂れ流れる鼻水を優しく拭ってくれるのにと思い
更に涙が噴出する
「……で、おーのくんは、今どうしてるの?」
玄関先で立ち尽くして、足元に転がった箱ティッシュを見ながらだらだらと涙を垂れ流す俺に
その足元のティッシュを拾って差し出してくれた相葉くんが、静かにそう問い掛ける
その問いに、松本くんが応えた
「智の中では未だに俺の恋人ってことになってるからな
俺とはとっくに終わっていて、櫻井くんと将来を誓い合って一緒に暮らしてるんだって聞いて、混乱してしまったらしくて…
それで、先生が、少し休んだ方が良いだろうって言って…今、弱い睡眠薬を飲んで眠ってるよ」
「そうなんだ…」
「…………眼を、合わせてくんないんだ」
相葉くんから受け取ったティッシュで、鼻を拭いながら、ボソボソと呟く
「……智くん……俺と……眼を、合わせてくんないんだよ……」
「……櫻井くん……」
相葉くんが、優しく俺の肩を抱く
「……まるきり、知らないやつを見る目で、俺を見るんだ……智くんが……俺の、智くん、がっ…///」
言いながらまたどうしようもなく涙が溢れて来て
俺は、優しい相葉くんの胸にガバッと抱き付いた
「……うっ……うっ……」
相葉くんの胸に押し付けた瞼の裏に
『しょおくん』
って、甘えた声で俺を呼ぶ智くんの可愛い微笑みが
浮かんで消える
「……うっ……うぅっ……ざどじぐん……/////」
もしも
もしも、智くんが俺のこと思い出してくれなかったら、どうしよう
あの優しい微笑みが、とろけるような眼差しが
二度と俺に向けられなくなってしまったら、どうしよう
「う………うわぁああ〜〜〜ん/////」
…そんな、情けないことを思い
無言で俺を優しく抱きしめてくれる相葉くんに、力いっぱい抱き付いて縋りながら
俺は、声と涙が枯れ果てるまで、泣き続けた
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