第38章 忘却の彼方に…、の巻
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智くんの意識が戻った後
俺は速攻で高島先生に連絡をして、すぐに来てくれるようにお願いした
高島先生は、俺からの連絡を受けて、すぐに来てくれると言ってくれた
そして俺は、先生が来るまでの時間を
目覚めた時に、智くんが俺のことが解らなかったのは、きっとずっと意識を失っていたが為の一時的なものに違いない
だからすぐに俺のコトを思い出してくれる筈だ
きっと、先生が来たら元通りの智くんになってくれるに違いない
そう、頭の中で呪文の如く繰り返し自分に言い聞かせながら
どう言う訳か、松本くんにべったり張り付いた智くんの、不審者を見る様な視線に堪えた
それからしばらくして到着した先生は、智くんの状態を聞いて
「ご主人様以外の方は、寝室から一旦お出になって下さい」
と言って、俺を残して他の面々を寝室から退去させようとした
でも、そんな先生に対して、智くんは泣きそうな顔をしながら
「知らない人と一緒は嫌だ、潤くんと一緒が良い」
と言って駄々をこね、俺の涙を再び大量噴出させた
それでもデリケートな問題なのでと言って、先生は俺以外の皆に寝室から出るように促した
だけどそれに対して、智くんも譲らずに、松本くんの腕をがっつり掴んで「潤くんが一緒じゃなきゃ嫌だ」と言ってきかなかった
結局、余りにも智くんが嫌がるので、松本くんも付き添って診察を受けるコトになったのだが…
…その結果判明した智くんの現状に
俺は、三度涙を大量噴出させる羽目になったのだった
「…では、何か変わったことがありましたら、またすぐにご連絡下さい」
診察を終えて帰る先生を、玄関まで見送る俺に
先生がそう声を掛けて、下がりきった俺の肩を軽く叩く
俺は、俺に同情の眼差しを向ける先生に、弱々しく応えた
「……はい、ありがとう、御座いました……」
「あまり、気を落とされずに…しっかり、なさって下さい」
「……はい……が、頑張りばず(泣)」
「………」
“頑張ります”の後半が、また泣き出した為に不明瞭になる俺を見て
先生はもう一度、軽く俺の肩を叩くと
「では」と、短く挨拶をして帰って行った
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