第38章 忘却の彼方に…、の巻
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「……ぐすっ……ざどじぐん……」(←泣きすぎた為、鼻水が垂れて来た)
「ちっくしょー、あのアマ……何処行きやがったんだ(怒)」
いくらなんでも、智くんの上に鼻水が垂れては大変だと、鼻をかむためにティッシュに手を伸ばした所で
ニノがプリプリ怒りながら部屋に入って来た
俺に嘘をついて東京へ戻るように仕向けた戸田さんは
俺が急いで別荘に到着した時には、既に姿をくらましてしまった後で
…でも、事を明るみにしたら、智くんの妊娠の事も世間に知られてしまうかも知れないからと言うこともあり
俺達は、この傷ましい事件を警察に届ける事が出来ずにいた
それで、ニノがそれこそ二宮家の総力を結集して彼女の行方を探したのだけど
どこぞに仲間でも居るのか、その所在はようとして知れなかったのだ
「草の根を掻き分けてでも見付けてひっ捕まえてやるッ(怒)
今に見てろよぉ
警察に捕まった方が何百倍も良かったって思う様な地獄をみせたるんですからねッ(怒)(怒)」(←本気でやりそうだから怖いっす)
「……でもさ、そんな事より……智くんが、早く眼を覚ましてくれる方が、先だよ……」
俺は顔を覆ったばっちい水分(笑)をきれいさっぱり取り除いてから
再び智くんの手を握って言った
「そりゃそうっすけど…あのアマをとっ捕まえて何でこんなクソみたいな事をしやがったんだか聞き出さないと
て言うか、どうせあのアマ、反同性愛のイカレたカルト信者だったんでしょうけど」
そう言いながら、ニノが俺の隣にどかっと座る
俺はそれを横目で見ながら、ぽつりと呟いた
「それでも………そんな事、聞き出したからって………
………俺と智くんの赤ちゃんは、もう………戻って来ないんだから」
「…………」
ふんふんと荒かったニノの鼻息が止まる
俺はその気配を感じながら、智くんの悲しそうな寝顔を見詰めた
「…………智くん、悲しむだろうな………」
「…………うん」
さっきまでの剣幕が嘘のように、小さく「うん」と言ったきり、黙り込むニノ
それから、俺とニノは
高島先生が智くんの様子を診に来てくれるまで
ずっと黙って智くんの寝顔を見詰めていた
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