第38章 忘却の彼方に…、の巻
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(……智くんごめん……
……俺が、俺さえ、ちゃんと気付いてあげてれば……)
あの、人生最大の喜びと絶望を味わう羽目になった日から
3日が過ぎようとしていたが
智くんの意識は、依然として回復の兆しをみせずに居た
先生の話しに寄れば
意識が回復しないのは、怪我の所為と言うよりは、精神的な事が原因だろうとの事だった
(…もしかしたら、智くんは…気付いて居たのかも知れない
気を失う前に…お腹の赤ちゃんが…
…死んで、しまったかも知れない事に…)
意識が回復しないのは、精神的な事が原因だと聞いて、そう思い当たり
なおのこと、どうして俺はあの時
最初に戸田さんを見たときに感じた違和感を、突き詰めて考えなかったのだろう…と
繰り返しそんな事を思う
俺は、情けなくだらだらと垂れ続ける涙を拭いもせずに
ぐったりとして眼を閉じたままの、智くんの青白い顔を見詰めながら、呟いた
「……智くん、ごめんね……」
あの日
緊急事態なんか起きて居なかった事を
高速に乗る前になって漸く会社に確認を取らなくちゃいかんコトに気付き(←焦り過ぎて忘れて居た)掛けた、会社への電話で知って
俺は大急ぎで別荘へ戻った
そして
階段の下で大量の血を流して倒れている智くんを見て、大いにパニクりまくり
挙げ句、119番ではなく、ニノの携帯に電話を掛けた
だが、その一点だけは怪我の功名と言うか
普通に救急車を呼んでも、智くんが妊娠している事は明かせないのだから
適切な処置が受けられなかった可能性が大いにあった訳で
そこで、ニノが機転を利かせて、すぐさま手配した医者に、高島先生から電話で処置の指示を出して貰って
智くんは辛うじて一命を取り留める事が出来た
……でも
その後
ニノが高島先生を連れて来てくれてすぐさま検査した結果
智くんのお腹にあった筈の命の痕跡は
跡形もなく消えてしまっている事が判明したのだった
その、悲しすぎる事実を知らされて…
…智くんが、俺以上に深く傷付き悲しみに暮れるであろう事を思って…
あの時、何故……って
あの日からずっと
俺は、そんな事を繰り返し思いながら涙に暮れて
智くんの意識が戻る事を祈り続けていた
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