第38章 忘却の彼方に…、の巻
.
「では、急いで二宮さんに連絡を致します」
緊急事態が起きたからと、会社から呼び出しがあった翔くんが別荘から飛び出して行った後
何時までも翔くんが出て行ったドアをぼーっと眺めている僕に、戸田さんが何時もの済ました顔で言った
「ありがとう御座います
お願いします」
ベッドの上から軽く頭を下げる僕に微笑み返して、戸田さんが部屋から出て行く
それからふと、こっちからは携帯で連絡を取れる事を思い出した
(向こうからは家電にしか連絡が来ないけど、こっちからは電話出来るんだよね…
…自分で電話しようかな?)
そう思って、僕が動かないでもすぐに使える様にと、ベッド脇にニノが設置してくれたインターフォンを手に取って
戸田さんの部屋に内線を掛ける
でも、一向に戸田さんが出る気配は無かった
「今電話中なのかな?」
僕は仕方無くインターフォンを切って、ベッドから降りた
そのまま部屋を出て、戸田さんの部屋に向かう
「戸田さん、すみません」
ドアをノックして声を掛ける
でも、やっぱり戸田さんからの応答はない
「おかしいなぁ……電話中でも、返事くらいは…」
「お呼びですか」
戸田さんの部屋の前でブツブツ言いながら首を傾げていたら
頭の上から戸田さんの声がした
ビックリして頭上を見上げると、螺旋階段の上の、吹き抜けになっている二階の廊下から
戸田さんが僕を見下ろしているのが目に入った
「あ、二階にいたんですか
あの…ニノにはもう電話しちゃいましたか?」
戸田さんを下から見上げながら僕がそう訪ねると、戸田さんが冷たい微笑みを浮かべながら
ゆっくりと首を横に振った
「いいえ、どなたにも連絡しておりません」
「そうですか、じゃあ僕から電話するんで…」
そう言いながらポケットから携帯電話を取り出す僕を見て
戸田さんが冷たく微笑んだまま言った
「……大野さんの携帯電話は壊れていて、ご利用になれませんよ」
.