第37章 嵐の到来、の巻
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嬉しそうに目を細めた翔くんが、それから真顔になると、僕の肩をしっかりと抱き締めて言った
「でもさ、やっぱり専門家の意見は重要だと思うんだよ」
「専門家って……高島先生のコト?」
「うん」
「………」
結局、やっぱり赤ちゃんを諦めろとか言われるんじゃないかって思って、僕が黙り込むと
翔くんはまた優しい微笑みを浮かべた
「心配しなくても、今すぐに先生が言うように手術を受けろなんてもう言わないよ?
だけどね、それでもやっぱり智くんの命を最優先させるってコトだけは譲れないんだ
…だから、もうこれ以上は智くんの命が危ないって先生が判断した時には…」
「……ニノにもね、同じこと言われたの」
僕は、辛そうな顔をしている翔くんの肩口に顔をうずめた
「……ニノに?」
「うん……ニノ、僕のお願いをきいてくれる代わりに、どうしてもこれ以上は命が危ないってなったら…
…赤ちゃんを諦めるって、約束しろって…」
「…智くん、それで…どうしたの?」
「…………約束、した///」
僕はまた溢れそうになった涙を誤魔化す様に、翔くんの肩に顔を擦り付けた
「……本当は……命を掛けてでも赤ちゃんを産みたかったけど……
……そんなの、僕の独りよがりのワガママなんだって、僕だって本当は解ってたんだ……
………だから………////」
「………」
翔くんが、黙って僕の顔を上げさせて、零れ落ちる涙を拭う
それから
甘く僕の唇に口付けると
また、優しく優しく微笑んだ
「………なんかさ、俺ら…神様の気紛れに振り回されてばっかな気がするけどさ
俺は変わらず、ずっとずっと智くんの傍に居るからね?
だからもう……泣かないで」
「………うん」
そう言うと翔くんも泣いてばっかじゃん、とか
神様の気紛れが、赤ちゃんが無事に産まれるまで続いてくれないかなぁ、とか
うるうると揺れながら僕を見詰める翔くんの大きな眼を見ながら
僕は、そんなコトを思っていた
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