第37章 嵐の到来、の巻
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「………」
それから、どれくらいが経っただろう
朝になる前にふと目覚めた僕は
僕を大事そうに抱き締めて眠る、翔くんの涙の後を幾筋も残した寝顔を見詰めて
さっきの翔くんの話を思い返していた
「…………」
翔くんは、お医者さんが言った通りに
僕のお腹の中にできた奇跡の種を摘み取る手術を、僕に受けさせる事を決めたらしい
翔くんが、そう決断したのは仕方が無いことだとは思う
翔くんは、そうするしか無かったのだと、僕にだって解っている
僕のことを心から愛して大切に想ってくれている貴方が
まだ見ぬ我が子の命よりも、僕の命の方を優先させたことは仕方がない事なんだ、って…
…解っているけど、だからと言って、せっかく芽吹こうとしている命の芽を摘み取るのは
やっぱり、嫌だった
(……このままにしておいて……僕のお腹の中で赤ちゃんが育てば……
……僕のお腹の中じゃ育たないって言ってたけど、そんなの本当には解らないんだから
だから、ちゃんと育つのが解れば、赤ちゃん……産ませてもらえるかな?)
どうせ殺されてしまうのなら
このままお腹の中に居させてあげて、僕の中で最後まで頑張らせてあげたい
僕の中に芽生えようとしている命が、本当に生きる力が無いのかどうかを
ちゃんと確かめたい
そのために自分の身が多少の危険に晒れたとしても
それでもやっぱり、それを確かめずして早々に赤ちゃんを諦めるのはどうしても嫌だった
「……翔くん………ごめんなさい……
……僕も、ごめんなさい……」
僕が居なくなったら生きていけないって言っていた翔くん
僕だって、翔くんが居なければ生きていけない
でも
だけど…ね
「……この子は、僕が諦めたら……その存在さえ無かった事にされちゃうんだ///」
そんなことさせないよ
僕の、赤ちゃん
君は、僕が守ってあげる
僕が、絶対に…
…産んで、あげるからね…
「…………」
僕は、翔くんを起こさない様にそっとベットから抜け出すと
ベッド脇に畳んで置かれた服に着替えて
そのままコッソリと病室を抜け出した
そして僕は
一人、何処へ行くあてもなく
嵐の中へ、飛び出して行った
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