第36章 奇跡の予兆、の巻
「………」
それは
本当に先生の言う通りであったろう
いくら、ニノのコネがあるからと言っても
こんな一大事を、ごく一部の医師の間だけでずっと隠し通すなんて事は
どう考えたって、無理な事であるのに違いない
「………それだけではありません」
その事実を確認させられて、絶句する俺に
高島先生は、更に過酷な現実を突き付けた
「万が一、妊娠の事実が病院の外に漏れる様な事があったら、それこそ一大事ですよ
マスコミに追い回されて、好奇の目に晒されるのは目に見えて明らかです
100%、大野さんは元の日常生活には戻れなくなるでしょう
ですから
事を我々だけで処理出来る内に、早々に処置してしまった方が賢明なのです
…その方が、大野さんにとって、精神的にも身体的にもダメージが少なくて済むでしょう」
「…………先生の、仰りたい事は、解ります……
……解り、ますが……
……一つだけ、確認しても、良いでしょうか」
あまりに過酷な現実を突きつけられて、声が震える
だけど
それでも構わず、「何でしょう」と言ってゆっくりと頷く先生に
俺は、ずっと気掛かりだった事を訊ねた
「……大変な、騒ぎになるから、って言う理由で…
…智くんの、お腹の中では……赤ちゃんが、育たないと言った訳では…
……無いんですよ、ね?」
それを聞いて、先生がキッパリとした口調で答えた
「ええ、勿論それは事実ですよ
男性である大野さんの胎内で胎児を育むのは、ほぼ不可能でしょう」