第36章 奇跡の予兆、の巻
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「……………」
先生の言葉に、目の前が暗くなってぐらりと視界が揺れる
そんな、今にも倒れそうな僕の体を、翔くんの逞しい腕が支えてくれた
「……智くん……」
「………」
心配そうに僕の名を呼ぶ翔くんの声に、答える事が出来なくて
僕は、黙ったまま翔くんの胸に顔を埋めた
そんな僕に、先生が更に残酷な告知をした
「もっと言えば、恐らくはこのまま妊娠が確定して、万が一それが持続した場合
大野さんの身体に危険が生じる可能性が非常に高いと言えるでしょう」
「し、身体の危険って…」
僕を抱く翔くんの手に、グッと力がこもる
そして、気持ち震えている翔くんに抱き締められていた僕は
胸が押し潰されたみたいになって、まともに息が出来なくなってしまっていた
だけど
先生の残酷な通知は、更に続いた
「ハッキリ申し上げれば、このまま妊娠が進んだ場合、母体の命の保証が出来ない言うことです
ですからそうなる前に、大野さんの胎内に発生した異物を取り除く手術を行うのが妥当だと思われます」
「そ、そんな…っ!!」
先生の言葉を聞いて、震える翔くんの腕が、僕をギュッと抱き締める
僕はもう、どうやって自分が息をしていたのかも解らなくなって
全く息が通らなくなった喉を押さえてうずくまった
「Σさ、智くん!?(汗)」
「これはいかん!」
「ーーー……////」
翔くんの腕に抱かれたまま、急速に意識が遠退いて行く
その消えかけた意識の端っこで、さっきの先生の言葉が繰り返される
『大野さんの胎内に発生した異物を取り除く手術を行うのが妥当だと思われます』
(………異物………)
僕の、
赤ちゃんは
“異物”なの……?
そんなの…
そんなの…
「………ひ………ど、ぃ……………ょ………」
「Σ智くんッ!!!////」
一筋の涙が、ぽろんと頬を滑り落ちるのと同時に
僕の意識は、そこで完全に途絶えた
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