第36章 奇跡の予兆、の巻
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それを見て、翔くんがベッドに腰掛けたまま先生に言う
「僕らは大丈夫です。
あ、僕、ここに座ってお話を伺ってもよろしいですか?」
「勿論、構いませんよ」
先生はそう言って、またにっこりと笑ってから
少し間を空けて真顔になると言った
「結論から申しますと、大野さんの胎内に、命が宿ろうとしているのは確かだと思われます」
「……それは、智くんが妊娠しているって意味ですか?」
先生の言葉を受けて、翔くんがそう訪ねる
僕は、何だかまた怖くなって先生の方を見ることが出来ずに俯いてしまった
その僕の肩を、翔くんがそっと抱き寄せる
そんな僕らの様子を見ながら、先生がゆっくり、そしてハッキリとした口調で現状を説明してくれた
「妊娠している、と言っていい状態には、まだ至ってはおりません
先刻、大野さんにはお話し致しましたが、“胎のう”と言う言わば命の種の存在は確認出来たものの
それが胎児として育つのかどうかは、全くの未知数だからです」
「…それは、智くんが男性だから、ですか?」
「勿論それも大いに関係しています
元来、卵子を有さない筈の男性である大野さんの胎内に
何故、将来胎児になりうる可能性のある胎のうが発生したのかも、全く解りませんし
その胎のう自体も、胎内のどの部分に着床しているのかは、今の段階では詳しくは解らないのです
ですから、万が一胎のうに心拍と胚が確認されて、一般的に“妊娠した”と確定出来る状態になったとしても
それが無事に育つかどうかは、今の段階では全く解らないのです」
「…………赤ちゃんの、種が……赤ちゃんになれるかも知れなくても……
……僕の、お腹の中じゃ、赤ちゃんになれない………って、事ですか?///」
俯いたまま、震える声を絞り出してそう訪ねる僕に
先生が、さっきと全く変わらない落ち着いた声で断言した
「ええ、その通りです。
大野さんの体では、妊娠を持続する事は、ほぼ不可能でしょう。」
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