第36章 奇跡の予兆、の巻
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「では、ご主人様がいらっしゃったら、後ほど詳しいお話をしにまた参ります」
先生はそう言いながらポケットから取り出した紙切れを僕に差し出した
「コレは、先ほど撮った大野さんの腹部のエコー写真ですが
宜しかったら大野さんに差し上げます」
「…エコー写真…?」
差し出された紙切れを受け取って見ると
黒い紙面の中央に、扇形の白っぽい画像が写っていて、その中に何やら丸いものがあるのが見えた
「……この、真ん中の丸いの……何ですか?」
「まだ、詳しい検査結果が出なければハッキリとは申せませんが
大野さんが妊娠していると仮定するのであれば
恐らくは、胎のうである可能性が高いですな」
「……たい、のう…?」
聞き慣れない言葉に目を丸くして首を傾げる僕に、教授先生が優しく笑いながら言う
「ハッキリソレがそうだとは申せませんが
胎のうとは、まあ、平たく言えば赤ちゃんになる種、と言ったところですかな」
「………赤ちゃんの、種………」
「これは、通常の妊娠でも言える事ですが」
教授先生はまた真面目な顔をすると、少し声を低くして言った
「その段階では、まだちゃんと赤ちゃんに成長するかどうかは断言出来ないのです
言うなれば、発芽前の種、と言ったところですかな
発芽の条件が整った状態で土に撒かれても、100%皆が発芽するとは限りませんからな」
「…………そう、なんですか」
「では、後ほど」
教授先生はそう言ってまた笑顔を作ると
静かに部屋を出て行った
「…………」
先生が出て行ったドアを、しばらくの間ぼんやりと眺める
それから僕は、もそっとベッドの上に体を起こして
お腹の上に、先生から貰った写真を握った置いた
「………赤ちゃんの、種………」
あなたは
本当に
…僕らの、赤ちゃんの……種、なの…?
「…………」
僕は、心の中でそう呟くと
写真を胸に押し当てて
そのまま、またベッドに横になって眼を閉じた
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