第35章 夢のあとのその先(後編)、の巻
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「どうされたんです?」
妻が、不思議そうに首を傾げる
その顔を見て
自分は妻に普段どれだけ冷たく接していたろうと
胸が痛くなった
「………イヤか?」
「何がですか?」
「………こんな風に、並んで座ったり、手を繋いだりするのは
イヤか?」
「いいえ?」
相変わらず不思議そうな顔をしていた妻が、ふっと笑みを浮かべる
「貴方の方が、お嫌なんじゃないんですか?
最愛の人と、別れなくてはならなくなった原因を作った女と
こんな風にするのなんて」
何時もの、澄ました笑みを浮かべたまま
妻が事も無げに言う
俺は、そんな妻の手を両手に包んで
優しく握り締めた
「お前には、感謝してるよ」
「…………」
「あのまま………俺と智が一緒に居ても
多分、二人とも不幸になっていただけだ」
「…………」
妻の
智に良く似た涙目が
俺を映して揺れている
俺は、笑顔のまま固まった妻を
そっと抱き寄せた
「………何か、あったんですか?」
「何か無いと妻を抱き締めたらいけないのか?」
「いいえ、そんな事は無いですけど」
「……俺たちも、もう結婚して三年だ
そろそろ、本音を聞かせてくれても良いんじゃないか?」
「…………」
腕の中の妻の体が
ぴくりと震える
俺は、その華奢な体を抱き締めたまま
不安気に体を堅くする妻に、静かに語り掛けた
「俺も……本音を白状するから……さ」
腕の中の妻は、黙ったまま体を硬直させている
俺は、そんな妻に
ずっと黙っていた真実を
ゆっくりと、静かに話し始めた
「……済まなかったって、思ってる
俺は、お前を騙して結婚したんだよ
初めは………結婚した後、会社が軌道に乗ったら、お前と別れるつもりでいたんだ」
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