第35章 夢のあとのその先(後編)、の巻
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「このサイズのが、他に二つもあるのか?」
「いいえ、正確には五体あったんです
クマと、ゾウと、キリンと、ライオンと…」
「ごりりゃ!!///」
「そう、ゴリラさんね」
妻が、手入れの行き届いた綺麗な手で、息子の頭を撫でる
その薬指に填められた結婚指輪が、控え目な光を放っていた
三年前に贈ったソレは
当時の輝きこそ少し失ってはいたが
大事に手入れしているのであろう
毎日その指に填められているとは思えない程に
美しく光っていた
俺はその輝きに
彼女の、言葉にはしない自分への愛を見た気がして
そっと、その細い手に自分の手を重ねた
「………お父さんとお母さんは、元気にしてらしたか?」
指に填められたその輝きごと、妻の手を握ってそう言うと
妻は、一瞬驚いた様に目を見開き
そして
綺麗に微笑んだ
「ええ、たまには貴方も一緒に連れて来なさいって言っていたわ」
「そうだな
次はそうしよう」
「しゃとち、おへやれ、くましゃんとあしょんでくりゅ〜♪」
パタパタと廊下を走って行く小さな背中を見送り
その手を握ったまま、妻を伴ってリビングへ移動する
妻は、握られたままの手を
黙って、不思議そうに見詰めていた
「………なあ」
手を繋いだまま、ソファーに座る
妻は、俺の隣には座らずにソファーの前に立ち尽くしたまま
相変わらず不思議そうな顔をして繋がれたままの手を見ている
「………手、離して欲しいか?」
「いいえ?
でも、手を繋ぐのなんて………結婚式以来かしらと思って
ビックリしただけです」
「そうか?アレ以来繋いでないか?」
「そうです。
正確に言ったら、“手を繋いだ”のではなくて“腕を組んだ”のですけど」
「そうだっけな(苦笑)」
済ました顔で、冷めた夫婦仲を語る妻を見て苦笑いしながら
俺は、繋いだ手を引いて、妻をソファーに座るように促した
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