第35章 夢のあとのその先(後編)、の巻
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(しかし……仲が良いよな、あの二人は)
俺は、智と櫻井くんが帰った後
独りきりになった家のリビングで、のんびりとソファーに腰掛けながら
仲の良い二人の姿を思い返していた
(それに引き替え、うちなんて仮面夫婦も良いとこだもんな(苦笑))
別に
妻が嫌いな訳でも気に入らない訳でも無かった
ただ
智との事があって
…彼女は、その事は何も言わなかったけれど
智との事を知っている彼女に対して
申し訳ない気持ちと相俟って
無闇に彼女に触れてはならない気がしていたのも、事実だった
(……彼女とも、ちゃんと向き合わなくちゃな……)
過去を、ちゃんと過去として受け入れ
俺に、前へ進む道を示してくれた智
その想いを受け取った今
…自分が成さなければならない事について、想いを巡らせる
(……彼女は……どう、思ってるんだろう)
こんな
不実な夫を
果たして彼女は
今でも愛してくれているのだろうか
果たして
俺が今更、彼女を愛することを
許して、くれるのだろうか…
「只今戻りました」
「たらいまぁ♪」
そんな事をぼんやり考えていたら
妻とさとしが、妻の実家から帰って来た
玄関へ出迎えに行くと
畏まって帰宅の挨拶をする妻の隣で
さとしが、祖父母から貰ったのであろう大きなクマのぬいぐるみを、大事そうに抱えて
ご機嫌でニコニコ笑っていた
「さとし、随分大きなお友達を連れて帰って来たな?」
「うん!おじいちゃまとおばあちゃまに、もりゃったの!」
「そうか、良かったな」
「他にも、ゾウだとか、キリンだとか、沢山あったんですが
そんなに持ち切れないから、彼方に置いておいて貰う事にしたんです」
嬉しそうにクマのぬいぐるみに頬ずりする息子を、愛おしそうに見詰めて妻が言う
俺はソレを聞いて、目を丸くして我が子が抱いている大きなぬいぐるみを見た
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