第35章 夢のあとのその先(後編)、の巻
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(智くん、ちっとも太ってなんかないのに…
…俺に、松本くんと二人きりになるチャンスをくれたんだね)
俺は、ニコニコ笑ってお買い物へ行く智くんの後ろ姿を見送りながら、そう思った
(解ったよ、智くん
俺、松本くんと二人だけで男の話しをするよ)
俺は、そう心の中で呟いて、松本くんの方を見た
すると、難しい顔をして固まっている松本くんと目があった
(いやいや、そんな怖い顔せんでも(汗))
と、ちょっとビビったものの、笑顔は崩さず
じっと松本くんを見る
思えば
こんな風にマジマジと松本くんを見るのも初めてだ
(……やっぱし、男前だよなぁ)
智くんが好きになって……今でも忘れられないのも、無理ないよな
なんて思いながら、俺は口を開いた
「二人っきりって初めてですかね?」
「はあ…まあ」
なんだか警戒しているみたいな声を出す松本くん
俺はそれでもメゲずに話しを続けた
「二人だけでお話がしたいなって思ってたんですよ」
「…はあ」
益々、松本くんの端正な顔が渋く曇る
でも
俺には、どうしても松本くんに話したい事があった
…それは…
「…やっとこの頃あんまり泣かなくなったんですよ…夜中に」
そう
それは
智くんが、俺と一緒になった頃から
いや、恐らくは
松本くんが、結婚してしまってからずっと見続けていた
悲しい夢の話し…
「…え?」
松本くんが、驚いた様に目を見開く
俺は、そんな松本くんににっこりと微笑んで見せた
それを見て、松本くんの男前な眉がピクリと動く
「智が、ですか?」
恐る恐ると言った感じでそう訊ねる松本くんに、俺は笑顔のままで答えた
「ええ、そうです。
まあ、智くんが言うには俺も寝ぼけて泣くことがあるみたいですけど(笑)」
「…はあ…智も寝ぼけて泣くんですか?」
「うーん…寝ぼけて、じゃなくて、寝言で、ですよ」
「寝言?」
そう…寝言で
智くんは、貴方を呼んでいた
ずっと
…ずっと…
もう、届かない貴方に、夢の中で手を伸ばして
必死に、行かないでと言って
貴方を
呼んで居たんです…
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