第33章 夢のあとのその先(前編)、の巻
.
(……部屋ん中、ほぼ画材だけだな(笑))
僕は、粗末な部屋に並べられた真新しい画材を見て
そのアンバランスさを笑った
こうして僕は、誰にも自分の所在を知らせることなく、新しい生活を始めた
僕は、揃えた画材で寝食を忘れて絵を描きまくった
描いて
描いて
描きまくって…
…あの悪夢を、頭の中から追い出そうと必死になって、絵を描くことだけに集中した
だけど、当然そんなコトは長くは続かなかった
何故なら
働かずに絵ばかり描いていたので、貯金はスグに底を突いてしまったし
…いくら忘れようとしても
悪夢は、僕を苛むコトを止めなかった
一日中絵を描いて、くたくたになって眠っても
悪夢は、僕の脳裏に蘇り
あの忌まわしい感触が、僕のカラダを這い回った
その度に僕は飛び起きて、体中を掻き毟り、泣き叫んだ
松本くん、助けて
松本くん、助けて
悪夢から覚めると決まって僕は…決して届くはずの無い叫び声を上げながら
バカみたいに泣き喚いた
『松本くん、助けて』
って、言いながら…
その頃から
僕の心はずっと潤くんに囚われていた
今思えば
彼をひたすらに想うことで、あの悪夢から逃れようとしていたのかも知れない
…逢いたかった
彼に…潤くんに
そして、抱いて欲しかった
このカラダに残った悪夢の記憶を
彼の手で書き換えて欲しかった
.